個人事業主として活動しながらアルバイトも掛け持ちする場合、税金や社会保険、確定申告に関する疑問を抱える方も少なくありません。
事業所得と給与所得という異なる種類の収入をどのように扱えばよいのか、確定申告は必ず必要なのかなど、戸惑うことも多いでしょう。
ここでは、個人事業主のアルバイト収入にまつわる税金や確定申告について、具体的な手続き方法や注意点を詳しく解説します。
適切な税務処理を行い、安心して事業とアルバイトを両立できるよう、参考にしていただけると幸いです。

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個人事業主でもアルバイトはできる?事業との両立は問題ないのか解説
個人事業主がアルバイトをすることは可能です。
個人事業主は自身で働き方を自由に決められる一方、アルバイトは雇用契約に基づく働き方であるため、この2つを並行して行うことに問題はありません。
特に、個人事業を始めたばかりで収入が不安定な時期には、個人事業主のアルバイトとして安定した収入源を確保できるのが良い点と言えるでしょう。
安定した収入があることで、金銭面だけでなく精神的な安定も得られ、自身の事業に安心して取り組むことができます。
また、自身の事業とは異なる業種でアルバイトをすることで、新しい視点や知識を得て、事業の発展に繋がるヒントを見つける機会にもなるのが嬉しいところです。
上記のように、個人事業主がアルバイトをすることには、収入の安定化や新たなスキルの獲得といった利点があります。
アルバイト収入で税金や社会保険の扱いはどう変わる?
個人事業主がアルバイトで収入を得る場合、税金や社会保険の扱いは、その収入が「給与所得」に分類されるか「事業所得」または「雑所得」に分類されるかによって異なります。
時給制などの雇用契約に基づくアルバイト収入は「給与所得」となり、完全出来高制などの請負契約に基づく収入は「事業所得」または「雑所得」となる場合があります。
所得の種類によって税金の計算方法や控除の適用が異なるため、自身のアルバイト収入がどの所得に該当するかを確認することが重要です。
また、アルバイト収入が増えることで、社会保険の加入条件を満たし、国民健康保険からアルバイト先の社会保険に切り替わる可能性もあるため、注意が必要です。
上記の変更点については正しく理解し、適切な手続きを行いましょう。
月収88,000円未満なら所得税は源泉徴収されない
アルバイトの収入に関して、扶養家族がいない場合、月収が88,000円未満であれば所得税は源泉徴収されないことがあります。
これは、年収が103万円以下(基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計)であれば所得税が発生しないためです。
しかし、個人事業主として事業所得がある場合は、アルバイト収入と事業所得を合算して税金が計算されます。
そのため、たとえアルバイト収入が源泉徴収されていなくても、確定申告で合計所得を申告し、適切な納税を行うことが必要です。
アルバイト先で源泉徴収がされていない場合でも、確定申告で納付する所得税額が増える可能性があるため、注意が必要となるでしょう。
アルバイト先の社会保険に加入できる条件
個人事業主のアルバイト収入が一定の条件を満たす場合、国民健康保険・国民年金に加えて、アルバイト先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入できることがあります。
社会保険への加入は、以下の4つのチェック項目をすべて満たす場合に適用されます。
具体的には、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること、月額賃金が8.8万円以上であること、2ヶ月を超える雇用の見込みがあること、そして学生ではないことです。
上記の条件を満たした場合、国民健康保険と国民年金に加入するよりも、アルバイト先の社会保険に加入した方が保険料の負担が軽減される場合があるため、要確認です。
なお、社会保険に加入しておくと将来受け取れる年金額が多くなったり、病気や怪我の際の保障が手厚くなったりと利点も少なくありません。
個人事業主がアルバイトをしたら確定申告は必須?
個人事業主がアルバイトをして給与所得を得た場合、原則として確定申告が必要です。
個人事業で得た収入は「事業所得」として、アルバイトで得た収入は「給与所得」として、それぞれ別の所得区分に分類されます。
そのため、確定申告書にはこれらの所得を分けて記載しなければなりません。
たとえアルバイト先で年末調整が行われたとしても、個人事業主として確定申告を行う際には、給与所得も合算して申告する必要があります。
これは所得控除が重複して適用されるのを防ぎ、正しい税額を算出するためです。
ただし、事業所得が20万円以下で、アルバイト収入が年末調整済みであれば、確定申告が不要となるケースもあるため、よく確認しておきましょう。
アルバイト先で年末調整済みでも確定申告は必要
アルバイトの大半は年末調整で所得税の精算が完了するため、確定申告は不要です。
しかし、個人事業主がアルバイトをしている場合は、たとえアルバイト先で年末調整が済んでいても、原則として確定申告が必要となります。
これは、個人事業主の事業所得とアルバイトの給与所得は異なる所得区分であり、それらを合算して総所得を計算し、正しい税額を算出する必要があるためです。
年末調整は給与所得のみを対象とするため、事業所得がある場合は別途確定申告で両方の所得を申告し、税金の過不足を精算することが求められます。
事業所得が20万円以下の場合の申告義務について
本業以外の副業やアルバイトで得た収入については、金額や種類によって確定申告の要否が異なります。
特に、個人事業主の事業所得が20万円以下である場合、確定申告が不要となるケースが存在するなど、状況により様々です。
ただし、これはアルバイト収入が年末調整済みである場合に限られます。
もし、アルバイト収入が年末調整されていない場合や事業所得が20万円以下であっても、医療費控除やふるさと納税による寄付金控除などを受けたい場合は、確定申告が必要です。
また、事業所得以外に不動産所得や雑所得などがある場合は、それらを合算した所得全体で税金が計算されるため、注意が必要です。
副業で得た収入が20万円以上であれば、税務署への申告が必須となります。
事業所得が赤字のときも確定申告で還付の可能性あり
個人事業の事業所得が赤字になった場合でも、確定申告をすることで税金の還付を受けられることがあります。
上記は「損益通算」という制度によるもので、事業所得の赤字を給与所得など他の所得と相殺し、課税所得を軽減することが可能です。
特に、アルバイト収入から源泉徴収されている所得税がある場合、事業所得の赤字と給与所得を損益通算することで、払い過ぎた税金が還付されることがあります。
確定申告をしないと、上記の損益通算の恩恵を受けることができないため、事業所得が赤字の場合でも必ず確定申告を行いましょう。
そうすることで、節税に繋げることが可能です。
【5ステップ】事業所得と給与所得を合算する確定申告のやり方
個人事業主がアルバイト収入を得た場合の確定申告は、事業所得と給与所得を合算して行う必要があるものの、5つのステップで進めることが可能です。
ここでは、事業所得と給与所得を合算する確定申告のやり方について詳しく解説します。
ステップ1:アルバイト先から源泉徴収票を入手する
個人事業主のアルバイト収入を確定申告するにあたって、まず最初に行うべきことは、アルバイト先から源泉徴収票を入手することです。
源泉徴収票は、1年間の給与収入や源泉徴収された所得税額などが記載された重要な書類であり、確定申告書作成の際に必要となります。
2019年以降、確定申告書への源泉徴収票の添付は不要となりましたが、正確な金額を申告するためには必ず手元に用意しておきましょう。
アルバイト先は所得税法によって源泉徴収票の交付が義務付けられているため、年末調整後(12月から1月中)に忘れずに受け取っておくと良いでしょう。
源泉徴収額が0円の場合でも発行されるため、保管しておくことが欠かせません。
ステップ2:事業所得の金額を計算する
事業所得の金額を計算するには、年間の売上から必要経費を差し引くことが必要です。
必要経費とは、事業を行う上でかかった費用のことで、交通費や通信費、消耗品費などが該当します。
青色申告を選択している場合は、さらに最大55万円または65万円の青色申告特別控除を適用することが可能です。
青色申告特別控除を受けるためには、複式簿記による記帳や貸借対照表・損益計算書の作成など、一定の条件を満たす必要がありますが、相応の節税効果が期待できます。
一方、白色申告の場合は特別控除は適用されませんが、簡易な記帳で済ませられます。
正確な事業所得を計算するためには、日々の収入と経費をきちんと記録し、領収書や帳簿を保管しておくことが重要です。
ステップ3:確定申告書に事業所得と給与所得をそれぞれ記入する
確定申告書に所得を記入する際は、まず事業所得と給与所得をそれぞれ正確に計算し、それぞれの区分に分けて記入することが必要です。
事業所得については、青色申告決算書(または白色申告の収支内訳書)を参照し、収入金額等と所得金額を確定申告書の「事業所得または不動産所得」欄(営業等「ア」欄)に記入します。
給与所得については、アルバイト先から受け取った源泉徴収票を確認し、給与収入の「支払金額」と所得金額の「給与所得控除の金額」を参照して、「給与所得」欄(「オ」欄)に記入しましょう。
このように、事業所得と給与所得は所得の種類が異なるため、それぞれを明確に区分して記入する必要があるでしょう。
ステップ4:源泉徴収された所得税額を忘れずに転記する
確定申告書に給与所得を記入する際には、源泉徴収された所得税額を忘れずに転記します。
アルバイト先から受け取った源泉徴収票には、すでに給与から天引きされた源泉徴収税額が記載されているため、金額を確定申告書右側の「税金の計算」カテゴリ内の「源泉徴収税額」欄に正確に記入しましょう。
源泉徴収税額を記入することで、すでに支払った税金が考慮され、最終的に納めるべき税金、または還付される税金を正しく計算可能です。
もしこの金額の転記を忘れてしまうと、所得税を二重に支払うことになったり、過大に納税してしまう可能性があるため、十分に注意しましょう。
ステップ5:計算した税額を納付する
確定申告書を提出して税額が確定したら、期限内に納付する必要があります。
納付方法はいくつかあり、自身の都合に合わせて選択できます。
例えば、金融機関や税務署の窓口での現金納付、e-Taxを利用した電子納税、クレジットカード納付、コンビニエンスストアでの納付などが一般的です。
納税期限は原則として確定申告期間の最終日である3月15日(土日祝の場合は翌平日)ですが、延納制度を利用できる場合もあります。
もし、源泉徴収された税金が最終的に計算された税金を超えていた場合は、還付金として税金が戻ってくるのが一般的です。
だからこそ、適切な方法で忘れずに税金を納付することが重要です。
確定申告の重要書類!源泉徴収票についての基礎知識
源泉徴収票は、給与所得者にとって確定申告を行う上で非常に重要な書類です。
これは、勤務先が従業員に支払った給与の金額や、そこから源泉徴収した所得税額などを証明する公的な書類であり、年末調整が完了した後に発行されます。
個人事業主がアルバイトをしている場合も、この源泉徴収票に基づいて給与所得を確定申告書に記入するため、その内容を正確に把握しておくことが必要です。
源泉徴収票には支払金額、給与所得控除後の金額、源泉徴収税額、社会保険料の金額、扶養親族の情報などが記載されており、確定申告書にも転記されます。
源泉徴収票がもらえない・紛失した場合の対処法
アルバイト先から源泉徴収票がもらえない場合や紛失してしまった場合でも、確定申告は可能です。
まず、勤務先に再発行を依頼しましょう。
所得税法により、事業主には源泉徴収票の交付義務があります。
もし、再発行に応じてくれない場合は、所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することで、税務署から勤務先に交付を指導してもらうことが可能です。
また、扶養控除申告書などの控えがあれば、それを参考に給与や源泉徴収額を概算で記入し、確定申告をすることもできます。
ただし、正確な金額を記入することが求められるため、できる限り源泉徴収票を入手できるよう努力しましょう。
源泉徴収票は確定申告書への添付が不要
個人事業主のアルバイト収入を確定申告する際、源泉徴収票は重要な情報源となりますが、2019年4月1日以降、確定申告書への添付は不要となりました。
以前は添付が義務付けられていましたが、現在は税務署がマイナンバー制度の活用などにより、源泉徴収票に記載された情報を確認できるようになっています。
しかし、添付が不要になったからといって、源泉徴収票が不要になったわけではありません。
確定申告書に給与所得や源泉徴収税額を正確に記入するためには、源泉徴収票の内容を確認することが必要です。
また、交付された源泉徴収票は確定申告が終わった後も、一定期間(原則7年間)大切に保管しておくようにしましょう。
個人事業主とアルバイトの確定申告に関するよくある質問
個人事業主とアルバイトをしている方から、確定申告に関して様々な疑問が寄せられます。
特に、一般的な会社員のケースとは異なるため、税金や扶養の取り扱い、複数のアルバイトをしている場合の申告方法など、戸惑うこともあるでしょう。
ここでは、個人事業主がアルバイトをした際の確定申告について、よくある質問とその回答をまとめて解説するので、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
個人事業主に「103万円の壁」は関係ある?
「103万円の壁」は、主に扶養されている配偶者や学生のアルバイト収入において、所得税が課税されるかどうかの基準として知られています。
103万円という金額は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合わせたものです。
しかし、個人事業主の場合、給与所得だけでなく事業所得も存在するため、この「103万円の壁」が直接的に適用されるわけではありません。
個人事業主の税金は、事業所得とアルバイトの給与所得を合算した総所得に基づいて計算されるのが一般的です。
そのため、給与収入が103万円以下であっても、事業所得がある場合は合計所得が課税対象となる可能性があります。
まずは、自身の所得全体のバランスを考慮し、確定申告で正しい税額を計算することが重要となるでしょう。
アルバイトを複数掛け持ちしている場合は?
個人事業主が複数のアルバイトを掛け持ちしている場合も、確定申告が必要です。
この場合、すべてのアルバイト先から源泉徴収票を入手し、それぞれの給与所得を合算して確定申告書に記入する必要があります。
通常、複数のアルバイト先がある場合、年末調整は主たる給与の支払いを受けている1社で行われます。
それ以外のアルバイト先については年末調整が行われないため、自身で確定申告をして所得税の精算を行わなければなりません。
すべての収入を正しく申告しないと、所得税の計算が誤り、追徴課税の対象となる可能性があるため注意が必要です。
複数のアルバイト収入がある場合は、特に正確な申告を心がけましょう。
給与所得と事業所得は損益通算できる?
個人事業主のアルバイト収入(給与所得)と事業所得は、原則として損益通算が可能です。
損益通算とは、所得の種類ごとに生じた損失(赤字)を、他の所得の利益(黒字)と相殺できる制度を指します。
例えば、事業所得が赤字になった場合、その赤字をアルバイトの給与所得と相殺することで、課税対象となる所得全体を減らすことができます。
上記の制度により、所得税の負担を軽減したり、払い過ぎた税金の還付を受けたりすることが可能です。
ただし、給与所得が損益通算の対象となるのは、事業所得が赤字の場合に限られます。
また、制度を活用するためには、確定申告で正確な所得と損失を申告することが重要です。
まとめ
個人事業主として活動しながらアルバイトも行うことは可能です。
個人事業主とアルバイトを両立する場合、税金や社会保険、確定申告の取り扱いが複雑になることがありますが、適切な知識があれば問題なく対応できます。
特に、個人事業主のアルバイト収入は給与所得に分類され、事業所得とは別に申告する必要があるため注意が必要です。
アルバイトを雇う側の個人事業主は、給与を必要経費として計上できますが、その際には労働契約や社会保険、税務関連の手続きを適切に行うことが求められます。
なお、事業所得と給与所得を合算して確定申告を行い、損益通算や各種控除を適切に活用することで、節税に繋がる場合もあります。
まずは、税務署や専門家に相談しながら正確な申告を行うことが重要です。
