訪問介護の開業に必要な資金・費用は?申請の流れや助成金まで解説

訪問介護事業での開業を検討している場合、必要な資金の内訳から具体的な申請手順、利用できる助成金、事業を成功させるためのポイントまでを把握することが重要です。

訪問介護事業は社会貢献になる一方、準備には専門的な技術と知識が求められるからこそ、計画的に準備を進める必要があります。

そこで、この記事では訪問介護に必要な資金や費用についてだけでなく、申請の流れや助成金まで詳しく解説します。

訪問介護の開業を考えている方の参考になれば幸いです。

訪問介護事業とは?提供する3つの基本サービス

訪問介護事業は、利用者の自宅にヘルパーが訪問し、自立した日常生活を送れるよう支援するサービスです。

主なサービス内容は「身体介護」「生活援助」「通院等乗降介助」の3つに大別されます。

  • 身体介護:食事や入浴、排泄といった利用者の身体に直接触れて行う介助を提供
  • 生活援助:掃除や洗濯、調理など日常生活に必要な家事を支援
  • 通院等乗降介助:利用者が通院する際の車両への乗降介助や受診手続きのサポートを行うサービス

上記のサービスを行うのが、訪問介護の軸となります。

訪問介護事業を開業しようと考えている方は、ここで挙げたサービスをそれぞれ理解しておくことが重要です。

訪問介護事業を開業するための5つのステップ

ここからは、訪問介護事業を開業するための5つのステップについて見ていきましょう。

ステップ1:事業計画を立て法人を設立する

訪問介護事業を始めるにあたり、最初に行うべきは詳細な事業計画の策定です。

事業の理念や提供するサービス内容、ターゲットとする利用者層、そして最も重要な資金計画や収支計画を具体的に盛り込みます。

計画書は、後の資金調達や事業運営の指針となるため、綿密に作成する必要があります。

併せて、訪問介護事業は個人事業では運営できず、法人格の取得も必須です。

法人格を取得する場合は、株式会社や合同会社、NPO法人など自身の事業規模や理念に合った形態を選び、設立手続きを進めましょう。

なお、法人設立には定款の作成や登記申請など、専門的な手続きが必要となるので、司法書士などの専門家に相談することもご検討ください。

ステップ2:事務所の物件契約と設備の準備を進める

事業計画と法人設立が完了したら、事業所となる物件の契約と設備の準備を行います。

訪問介護の事業所には、事務作業を行うスペース、プライバシーに配慮した相談室、そして手指洗浄のための洗面設備が必要です。

これらの要件を満たす物件を探し、賃貸契約を結びます。

なお、物件によっては自宅の一部を事務所として利用することも可能ですが、事業用スペースと居住スペースが明確に区切られていることが条件となるため、注意が必要です。

契約後は、事務作業に必要な机や椅子、鍵付きの書庫、パソコン、電話、FAXといった備品を揃える他、感染症対策のための消毒液やマスク、手袋などの衛生用品の準備も欠かせません。

ステップ3:基準を満たすために必要な人員を確保する

訪問介護事業所の運営には、国が定める人員基準を満たす必要があります。

具体的には「管理者」「サービス提供責任者」「訪問介護員」の3つの職種を配置しなければいけません。

  • 管理者:事業所全体を統括する役割を担う
    ⇒特別な資格要件はないものの兼務規定には注意が必要
  • サービス提供責任者:介護福祉士などの資格が求められる
    ⇒利用者の状況に応じた訪問介護計画を作成する
    ⇒利用者数に応じて配置人数が変わる
  • 訪問介護員:実際にケアを行う
    ⇒介護職員初任者研修修了者以上の資格を持つ常勤換算で2.5人以上の配置が義務付けられている

上記の人員を確保することが重要です。

人材選びはサービス全体の行く末を左右する要素となるからこそ、慎重に判断しなければなりません。

ステップ4:指定申請の書類を作成し管轄の役所に提出する

法人設立、事務所確保、人員配置が完了したら、いよいよ指定事業者の申請手続きです。

申請手続きに必要な申請書類は「指定申請書や法人の定款、従業員の勤務体制一覧表、事業所の平面図、運営規程」など多岐にわたり、事業所を管轄する都道府県または市区町村の担当窓口に提出することが求められます。

なお、提出前には担当窓口との事前相談が推奨されており、書類の不備や要件の確認を行うことがスムーズな手続きに繋がります。

申請書類は複雑で作成に時間がかかるため、計画的に準備を進めるのが望ましいです。

自力での作成が難しい場合は、行政書士といった専門家にご依頼ください。

専門家は今後も付き合うことになるので、じっくりと検討しましょう。

ステップ5:指定通知書の交付後に事業を開始する

指定申請書類を提出すると、行政による審査が開始されます。

審査期間はおおよそ1ヶ月から2ヶ月程度で、この間に書類内容の確認や、場合によっては事業所への実地調査が行われるのが一般的です。

審査で基準を満たせば指定通知書が交付され、訪問介護事業を開始できるようになります。

なお、指定日は毎月1日と定められていることが一般的です。

通知書が届くまでの期間に関しては、ケアマネジャーへの挨拶回りといった営業活動や採用したスタッフへの研修、利用者受け入れのためのマニュアル整備などを進めておくと、スムーズなスタートが切れるでしょう。

事業開始後の運営を円滑にするためにも、準備期間を有効に活用することが何よりも重要と言えるのではないでしょうか。

開業に必須!訪問介護の指定基準3つのポイント

ここでは、開業に必須の訪問介護の指定基準3つのポイントについて見ていきましょう。

人員基準:管理者・サービス提供責任者・訪問介護員の配置

訪問介護事業所には3つの職種の配置が義務付けられています。

まず、事業所全体を管理する「管理者」が一人必要です。

併せて必要となる「サービス提供責任者」は訪問介護計画の作成などを担う役割があり、介護福祉士などの資格が必要(利用者の人数に応じて配置人数を調整)です。

例えば、利用者40人につき一人以上の配置が基本となります。

その他、実際にサービスを提供する「訪問介護員」は、常勤換算方法で2.5人以上を配置しなければいけません。

なお、訪問介護員は介護職員初任者研修修了者以上の資格が求められます。

これらの人員を確保することが指定を受けるための大前提です。

設備基準:事業所に必要なスペースと備品

訪問介護事業所の設備基準では、事業の運営に必要なスペースと備品の確保が必須です。

具体的には、事務作業を行うための事務室、利用者やその家族からの相談に応じるための相談室、そして感染症予防のために手洗いができる洗面設備の設置が必須です。

相談室は、プライバシーが保護されるよう、パーテーションで区切るなどの配慮が必要です。

また、備品としては事務机や椅子、電話、パソコンといった事務用品に加え、利用者情報などの個人情報を保管するための鍵付き書庫が欠かせません。

加えて、訪問介護員が使用する手指消毒液や石鹸などの衛生用品も常備しておく必要があります。

運営基準:事業所を運営するためのルール

運営基準は、訪問介護事業所を適正に運営するためのルールを定めたものです。

これには、サービス内容や利用料金、営業日、営業時間などを明記した運営規程の作成と掲示が含まれます。

また、利用者一人ひとりに対して訪問介護計画書を作成し、その内容について同意を得た上でサービスを提供することや、従業員の資質向上のための研修機会を確保することも義務付けられています。

もちろん、利用者の個人情報を含む秘密保持の徹底、虐待防止措置、苦情を受け付けるための窓口設置など、遵守すべき項目は他にも多岐にわたるので、注意が必要です。

上記の基準を守りつつ、ハイクオリティなサービスを提供できる体制を整えなければなりません。

訪問介護の開業に必要な資金の内訳を解説

次に、訪問介護の開業に必要な資金の内訳について見ていきましょう。

開業前に準備すべき初期費用

事業を開始する前に必要となるのが初期費用です。

主な内訳としては、法人設立のための登録免許税や定款認証手数料が挙げられます。

加えて、事業所となる物件の契約にかかる敷金・礼金や仲介手数料、必要に応じて内装工事費、事務作業用のデスクやパソコン、鍵付き書庫、相談スペースの机や椅子といった備品の購入費用も必要です。

利用者宅への移動手段として車両を購入する場合は、その費用も考慮してください。

これらの初期費用は事業所の規模や立地、設備のグレードによって変動するからこそ、自身の計画に合わせて見積もりましょう。

なお、初期費用は貯金もしくは他の資金調達方法から捻出するのが一般的とされます。

法人設立にかかる登録免許税や手数料

法人設立には、法務局への登記申請時に支払う登録免許税や、公証役場での定款認証手数料などの費用が発生します。

例えば、株式会社を設立する場合、登録免許税が最低15万円、定款認証手数料が約5万円かかるのが一般的です。

一方、合同会社であれば登録免許税は最低6万円で、定款認証が不要なため、設立費用を抑えることが可能です。

また、紙の定款を作成する場合は4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款を利用すればこの費用はかかりません。

上記の法定費用の他に、司法書士などの専門家に手続きを依頼する場合は、別途報酬が発生することも念頭に置く必要があります。

事務所の契約や内装にかかる費用

事業所となる物件を賃貸契約する際には、まとまった費用が必要です。

一般的に、敷金・礼金、仲介手数料、初月分の家賃(前家賃)などを合わせて、家賃の6ヶ月分程度が初期費用としてかかると言われています。

例えば、家賃10万円の物件であれば60万円程度を見込んでおく必要があるでしょう。

また、物件の状態によっては相談スペースを確保するためのパーテーション設置や、洗面台の増設といった内装工事が必要になるケースもあります。

その場合は、数十万円単位で追加の費用が発生する可能性があるので、これら物件選びの段階で内装工事の要否も確認しておくことが重要です。

備品や車両の購入費用

事業所の運営に不可欠な備品の購入にも費用がかかります。

事務机や椅子、パソコン、電話機、複合機、個人情報を保管する鍵付き書庫などが主なものです。

事務用品一式であれば、20万円〜50万円を見込んでおくと良いのではないでしょうか。

加えて、感染症対策のための消毒液やマスク、手袋といった衛生用品の他、利用者宅を訪問するための車両も準備しなければなりません。

車両に関しては、新車を購入するのか中古車にするのか、あるいはリース契約を結ぶのかによって費用は変動するものの、購入する場合は100万円〜200万円を目安にしましょう。

必要に応じて、今後のメンテナンス費用も考慮しておいてください。

事業開始後に必要となる運転資金

事業を開始してすぐに収入が得られるわけではないので、運転資金の確保は重要です。

訪問介護の主な収入源である介護保険からの報酬は、サービスを提供した月の翌々月に入金されるのが一般的です。

つまり、事業開始から最初の入金があるまで約2ヶ月間のタイムラグが生じます。

この間スタッフへの給与支払いや事務所の家賃、水道光熱費などの経費は発生し続けます。

そのため、最低でも3ヶ月分、可能であれば6ヶ月分の運転資金を自己資金として準備しておいてください。

資金ショートを避けるためにも、余裕を持った計画を立てましょう。

スタッフへ支払う人件費

運転資金の中で最も大きな割合を占めるのが、スタッフへ支払う人件費です。

これには、毎月の給与や賞与だけでなく、社会保険料や労働保険料の事業主負担分も含まれます。

一般的に、社会保険に加入する場合、従業員の給与総額に対して約15%程度の金額を事業主が負担することになります。

例えば、管理者、サービス提供責任者、常勤換算2.5人分の訪問介護員を雇用した場合、それらの費用を合計すると月々100万円以上の人件費が発生することも珍しくありません。

ゆえに、事業が軌道に乗るまでの間、人件費を支払い続けられるだけの資金を確保しておくことも不可欠です。

事務所の家賃や水道光熱費

人件費と並んで毎月必ず発生するのが、事務所の家賃や水道光熱費といった固定費です。

事務所の家賃は、事業所の所在地や広さによって金額が変動しますが、経営を圧迫しないよう、事業計画に見合った物件を選ぶことが重要となります。

また、電気、ガス、水道といった水道光熱費や、電話、インターネットなどの通信費も継続的にかかるでしょう。

これらの費用は季節や使用状況によって変動するものの、それぞれ毎月一定額が発生するものとして予算に組み込んでおくことが重要です。

事業開始当初は収入が不安定だからこそ、固定費を抑える工夫も求められます。

その他(広告宣伝費など)の諸経費

人件費や家賃のほかにも、事業運営には様々な経費がかかります。

例えば、利用者やケアマネジャーに事業所を知ってもらうための広告宣伝費が主です。

具体的には、パンフレットやチラシの作成費用、ウェブサイトの開設・維持費用などが挙げられる他、コピー用紙やトナーなどの事務消耗品、マスクや手袋などの衛生消耗品も定期的に購入が必要となるのではないでしょうか。

車両を持つ場合は、ガソリン代や駐車場代、自動車保険料といった維持費もかかります。

万が一の事故に備えるための損害賠償責任保険への加入も欠かせないからこそ、諸経費も考慮して資金計画を立てることが重要です。

開業資金を調達する2つの主な方法

次に、開業資金を調達する2つの主な方法について見ていきましょう。

日本政策金融公庫などの金融機関から融資を受ける

開業資金を調達する一般的な方法が、金融機関からの融資です。

特に、政府系金融機関である日本政策金融公庫は、事業を始める創業者向けの融資制度が充実しており、民間金融機関に比べて低金利かつ審査のハードルも高くないとされています。

具体的には「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」が代表的です。

一方で、融資審査では事業計画の実現可能性や返済能力が厳しく見られるため、説得力のある事業計画書を作成することが求められます。

地方自治体が金融機関と連携して設けている「制度融資」も低金利で利用しやすいものの、同じく事業計画書は必須となるでしょう。

国や自治体が提供する助成金や補助金を活用する

融資と合わせて検討したいのが、国や地方自治体が提供する助成金や補助金です。

これらは原則として返済が不要なので、活用できれば資金繰りの助けとなります。

例えば、従業員のキャリアアップを支援する「キャリアアップ助成金」や、働きやすい職場環境を整備した際に利用できる「人材確保等支援助成金」が代表的です。

また、自治体によっては介護事業所の開設を支援する独自の補助金制度を設けている場合もあります。

一方、大半は事業実施後の後払いであり、申請期間が限られているからこそ、事前に情報を収集して計画的に申請準備を進めなければなりません。

訪問介護事業を軌道に乗せるための3つのポイント

最後に、訪問介護事業を軌道に乗せるための3つのポイントについて見ていきましょう。

安定した人材を確保し定着させる工夫をする

訪問介護事業のサービスの質は、働くスタッフの質に直結します。

介護業界は慢性的な人手不足であり、優秀な人材をいかに確保し、長く働いてもらうかが事業成功の鍵となります。

そのためには、魅力的な労働条件を提示することが欠かせません。

適切な給与水準を設定することはもちろん、社会保険の完備や休暇の取りやすいシフト制、福利厚生の充実など、働きやすい環境を整備しましょう。

また、定期的な研修や資格取得支援制度を設けてスキルアップを後押ししたり、管理者とスタッフ間のコミュニケーションを密にして風通しの良い職場づくりを心がけたりすることも離職率の低下に繋がるはずです。

重要なのは、働く人の気持ちを考えることです。

利用者獲得のための営業活動を計画的に行う

事業を開始しても、ただ待っているだけでは利用者は現れません。

利用者を紹介してもらうための計画的な営業活動が不可欠です。

例えば、訪問介護における主な営業先としては、地域の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーがあります。

ケアマネジャーは利用者のケアプランを作成する立場にあり、どの訪問介護事業所に依頼するかを決定する重要な役割を担う存在です。

まずは事業所のパンフレットなどを持参して挨拶に伺い、自社の強みや特色、対応可能なサービスなどを具体的にお伝えください。

一度だけでなく定期的に訪問し、情報提供や意見交換を行うことで信頼関係を築くことが、継続的な利用者紹介に繋がります。

資金繰りに余裕を持った事業計画を立てる

事業の失敗原因としてよく挙げられるのが、資金繰りの悪化です。

ゆえに、介護報酬の入金がサービス提供から約2ヶ月後という訪問介護事業の特性を理解し、余裕を持った資金計画を立てることが極めて重要となります。

まずは売上予測を楽観的に立てるのではなく、現実的な利用者数や単価を想定し、慎重にシミュレーションを行ってください。

少なくとも事業開始から半年間は赤字が続いても運営できるよう、多くの運転資金を準備しておくのが理想です。

また、車両の故障や急な退職者の発生など、予期せぬ出費に備えるための予備費も計画に含めておくとより安心できます。

まとめ

訪問介護事業の開業には、事業計画の策定から法人設立、人員設備の確保、そして指定申請といったいくつかの手順を踏む必要があります。

ゆえに、介護保険法に基づく指定基準を理解し、1つずつクリアしていくことが重要です。

また、事業開始直後は収入が不安定なため、初期費用に加えて少なくとも3ヶ月から半年分の運転資金を多く準備しておくことが、安定経営の基盤となります。

開業後も優秀な人材の確保と定着、ケアマネジャーとの連携による利用者獲得、そして余裕を持った資金管理を継続的に行うことが、事業成功に必要となるでしょう。

だからこそ、計画的な準備と実行、地域に必要とされる事業所作りが必要です。

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#カケハシ 編集部

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