会社設立の手順|株式会社の費用・必要書類・メリット・注意点

会社を設立するには、メリットやリスクを理解したうえで、正しい手順と流れに沿って手続きを進めることが必要です。

一方で、具体的な費用や必要手順について知らない人も珍しくありません。

そこで、この記事では株式会社を設立する具体的な方法や、運営に必要なことについて、費用・必要書類・注意点といった多角的な観点からわかりやすく解説します。

会社設立で得られる5つのメリット|個人事業主との違いも解説

会社設立は個人事業主と比較した場合、社会的信用の向上、税負担の軽減、資金調達の選択肢の拡大といった様々な面で恩恵があると言っても過言ではありません。

他にも、事業年度を自由に設定できる柔軟性や、社会保険加入による福利厚生の充実など、事業運営と個人の生活両面に影響する利点が存在するわけです。

まずは、会社設立で得られる5つのメリットについて詳しく解説します。

社会的信用度が高まりビジネスが有利になる

法人化すると、法務局に登記情報が公開されるため、誰でも会社の存在を確認できるようになり、社会的な信用度が高まります。

上記のような信用は、金融機関からの融資審査や大手企業との取引において有利に働くことが多く、ビジネスの拡大に直結することも少なくありません。

営業活動においても、法人格を持つことで信頼を得やすくなり、結果として売上や利益の向上に貢献する可能性があるでしょう。

また、独自のドメインを持つメールアドレスや会社のロゴが入った挨拶状、丁寧な電話対応を行うことで、より取引先からの信頼を獲得しやすくなるのではないでしょうか。

単に、法人名義で郵便物や連絡を受け取るだけでも、個人事業とは別の印象を与えることが可能です。

個人事業主より税負担を軽減できる可能性がある

所得が一定額を超えた場合、個人事業主に課される所得税よりも法人税の方が税率が低くなるため、結果的に納税額を抑えられる可能性があります。

法人化による節税の効果は高く、経費として認められる範囲が広がる点も特徴です。

例えば、役員報酬や退職金、生命保険料の一部などを損金として算入できます。

設立前の経費も、領収書を保管し適切な仕訳を行えば、創立費や開業費として計上可能。

また、資本金1,000万円未満で設立した場合、最大2年間の消費税免税期間が適用される場合もある他、青色申告の承認申請書を提出することで、欠損金の繰越控除といった税制上の優遇措置も受けられるのが魅力です。

融資や補助金など資金調達の幅が広がる

法人は個人事業主と比較して事業の透明性があり、社会的信用があるため、資金調達の選択肢も拡大するとされています。

日本政策金融公庫の創業融資制度をはじめ、金融機関が法人向けの様々な融資プランを用意しており、有利な条件で運転資金や設備投資のためのお金を得やすくなります。

また、国や地方自治体が実施する補助金や助成金の中には、法人のみが対象となるものや法人の方が採択されやすい要件が設定されているものも珍しくありません。

投資家からの出資やクラウドファンディングといった方法も、法人格を持つことでアプローチしやすくなり、事業拡大のチャンスに繋がるはずです。

つまり、資金調達の面では法人格の方が有利です。

事業年度(決算月)を自由に決められる

個人事業主の会計期間が1月1日から12月31日までと定められているのに対し、法人は事業年度、つまり決算月を自由に設定できます。

これにより、事業の繁忙期を避けて決算月を設定することが可能となり、決算業務に集中できる環境を整えられるわけです。

例えば、3月や4月が忙しい小売業であれば5月を決算月に、年末がピークの業種であれば1月を決算月にするなど、自社のサイクルに合わせることが可能です。

また、設立日から最も遠い月を決算月に設定すれば、消費税の免税期間を最大限活用できるというメリットもあります。

何月を決算月にするかは、会社の戦略上重要な決定事項となるので、まずは自社に合わせて決めてみてはいかがでしょうか。

社会保険への加入で福利厚生が充実する

法人は、社長一人でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。

ゆえに、個人事業主が加入する国民年金に比べ、厚生年金は将来の年金受給額が手厚くなるため、老後の生活設計において有利です。

健康保険では、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金といった保障も受けられます。

また、正社員を雇用する際には労働保険(雇用保険・労災保険)への加入も必須となり、従業員は万が一の失業保険など手厚い保護を受けられるのです。

それらの福利厚生の充実は、優秀な人材を確保するうえでもアピールポイントとなり、安定した組織運営に寄与すると言っても過言ではありません。

【全6ステップ】株式会社設立の具体的な手順と流れ

次に、株式会社設立の具体的な手順と流れについて見ていきましょう。

ステップ1:会社の基本情報(商号・事業目的など)を決定する

会社設立の最初のステップは、定款に記載する基本事項の決定です。

決定すべき項目は、商号(会社名)、本店所在地、事業目的、資本金の額、発起人、役員構成、発行可能株式総数、事業年度など多岐にわたります。

中でも特に重要なのは以下、商号(会社名)・本所在地・事業目的・役員構成の4つ。

  • 商号(会社名):類似商号の調査を行い、事業目的は将来展開する可能性のある事業も視野に入れて記載
  • 本店所在地:レンタルオフィスや自宅の住所も可能だが、賃貸契約の内容を確認する必要がある
  • 事業目的:建設業など許認可が必要な事業を行う場合は、必要な資格や要件を満たす目的を記載しなければならない
  • 役員構成:役員は取締役一人、株主も一人から設立可能で、1人で両方を兼ねることもできる

以上に加えて、資本金の額や発起人、発行可能株式総数、事業年度を決めましょう。

なお、現在、有限会社は新規に設立できませんため、どのような形式の組織にするのかも一緒に決めておいてください。

ステップ2:法人用の実印(会社印)を作成する

会社の基本事項が決定したら、登記申請に不可欠な法人用の印鑑を作成します。

一般的には、法務局に登録する会社実印(代表者印)、銀行口座開設に使用する銀行印、請求書や見積書に押印する角印の3種類を用意するのが通例です。

特に会社実印は、会社の意思決定を証明する最も重要な印鑑であり、設立登記の際に印鑑登録を行う必要があります。

この印鑑登録手続きには、代表者個人の印鑑証明書が必要となるので、事前に市区町村役場で取得しておきましょう。

なお、それらの手続きはマイナンバーカードがあれば、コンビニエンスストアで取得できる場合もあります。

身分証明書としても使用できるからこそ、管理には注意が必要です。

印鑑に関しては、保管場所も決めておいてください。

ステップ3:会社の憲法となる「定款」を作成する

定款とは、会社の組織や運営に関する基本的なルールを定めた書類であり、「会社の憲法」とも呼ばれるほど重要なものです。

一般的に定款は商号、事業目的、本店所在地、資本金といった基本事項を基に作成します。

なお、定款には必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」、定めがなければ効力が生じない「相対的記載事項」、任意で定められる「任意的記載事項」の3種類があるため、忘れずに作成しておくことが重要です。

記載事項に漏れや不備があると定款そのものが無効になるので、専門家の雛形を参考にするなどして慎重に作成しておくと安心です。

また、決算公告の方法も定款で定める必要があり、一般的には費用が安い官報での掲載が選択されます。

ステップ4:公証役場で作成した定款の認証を受ける

作成した定款は、その内容が正当な手続きによって作成されたことを証明してもらうため、公証役場で認証を受ける必要(合同会社の場合、定款認証は不要)があります。

この定款認証は株式会社の設立手続きにおいて必須であり、それらを受けなければ定款は法的な効力を持ちません。

なお、認証を受ける公証役場は、設立する会社の本店所在地と同じ都道府県内に所在する役場から選びます。

実際の手続きでは、作成した定款の他、発起人全員の印鑑証明書や本人確認書類などが必要です。

定款の内容に不備があると認証を受けられず無効となるので、事前に記載内容を十分に確認することが重要です。

ステップ5:個人の銀行口座に資本金を払い込む

定款の認証が完了したら、次に資本金の払い込みを行います。

この時点ではまだ法人口座が存在しないため、発起人の代表者個人の銀行口座を使用するのが一般的です。

各発起人が定款で定めた出資額をその口座に振り込む形で払い込みを実施します。

払い込みが完了したら、証明として「払込証明書」を作成し、払い込みが記帳された通帳のコピー(表紙・支店名などが記載されたページ・振込記録のあるページ)と合わせて登記申請書類に添付してください。

最近では通帳がないネット銀行もありますが、もし通帳がない場合は取引履歴画面を印刷したもので代用可能です。

なお、資本金は1円からでも可能ですが、見せ金は認められず、事業の元手となる適切な金額(10万円・300万・500万など)を用意しましょう。

ステップ6:法務局へ登記申請書類を提出する

資本金の払い込みまで完了すれば、いよいよ最終ステップである法務局への登記申請です。

本店所在地を管轄する法務局に、登記申請書、認証済みの定款、役員の就任承諾書、印鑑証明書、資本金の払込証明書といった一連の書類を提出します。

なお、提出方法は法務局の窓口へ直接持参する他、郵送やオンラインでの申請も可能。

この登記申請書を法務局が受理した日が、会社の設立日となります。

登記手続きが完了すると、会社の登記簿謄本である「履歴事項全部証明書」や印鑑証明書を取得できるようになり、それにより法人として正式に活動を開始可能です。

株式会社の設立にかかる費用の内訳と総額の目安

ここからは、株式会社の設立にかかる費用の内訳と総額の目安について見ていきましょう。

定款の認証手数料

株式会社を設立する際には、公証役場で定款の認証を受ける必要があり、その際に支払うのが定款の認証手数料です。

この手数料は、会社の資本金の額によって変動します。

具体的には、資本金の額が100万円未満の場合は3万円、100万円以上300万円未満の場合は4万円、そして300万円以上の場合は5万円という具合です。

上記の手数料に加えて、認証された定款の謄本(写し)を発行してもらうための手数料が、1ページあたり250円程度別途かかり、通常は公証役場の窓口で現金にて支払います。

なお、認証手数料は会社設立における法定費用の一つであり、避けることはできません。

定款に貼付する収入印紙代

作成した定款を紙媒体で認証を受ける場合、4万円の収入印紙を定款に貼付します。

これは印紙税法に基づくもので、紙の文書に対する課税です。

しかし、それらの収入印紙代は定款を電子データで作成し、オンラインで認証を受ける「電子定款」の形式を採用することで不要とすることもできます。

電子定款の作成には専用のICカードリーダライタが必要ですが、行政書士などの専門家や会社設立支援サービスを利用すれば、自前で設備を整えることなく印紙代を節約可能です。

近年は政府が推進するオンライン申請(ワンストップサービス)の普及もあり、ネットを活用した電子定款を選ぶのも良いでしょう。

登記申請時の登録免許税

登録免許税は、会社の設立登記を法務局に申請する際に納付する国税です。

株式会社の場合、この免許税の額は資本金の額に0.7%を乗じた金額と定められています。

一方、それらの計算で算出された金額が15万円に満たない場合は最低税額として一律で15万円を納める必要があります。

したがって資本金の額が約2,142万円以下で会社を設立する場合登録免許税は15万円となる計算です。

なお、この税金は登記申請書に15万円分の収入印紙を貼付して納付するのが一般的です。

それも定款認証手数料と同様に会社設立に必ずかかる法定費用の一つとなります。

会社設立後に必須となる手続き一覧

ここでは、会社設立後に必須となる手続き一覧について見ていきましょう。

税務署や都道府県税事務所などへの税金関連の届出

会社設立後は、税金を納めるための手続きとして、複数の行政機関への届出が必要です。

まず、国税を管轄する税務署へは設立後2ヶ月以内に「法人設立届出書」を提出します。

同時に、節税効果が期待できる「青色申告の承認申請書」や、役員報酬や従業員給与から源泉所得税を徴収するために必要な「給与支払事務所等の開設届出書」も提出するのが一般的です。

次に、地方税を管轄する都道府県税事務所および市区町村役場に「法人設立届出書」を提出(提出期限は都道府県や市区町村によって変わる)します。

年金事務所などで行う社会保険・労働保険の手続き

法人は、代表者一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が法律で義務付けられています。

会社設立から5日以内に、本店所在地を管轄する年金事務所へ「新規適用届」や「被保険者資格取得届」といった書類を提出する手続きが必要です。

年金事務所への届出を怠ると、遡って保険料を請求される場合があります。

また、従業員を一人でも雇用した場合は、労働保険(労災保険・雇用保険)への加入手続きも発生するため、注意が必要です。

労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークが窓口となるので、併せて「保険関係成立届」などの書類をご提出ください。

事業用の取引で使う法人口座の開設

会社の財産と代表者個人の財産を明確に区分し、取引の透明性を確保するため、事業用の法人口座開設は必須です。

法人口座の開設は、個人口座と比べて審査が厳格で、時間を要する傾向にあります。

審査には、法務局で取得した「履歴事項全部証明書」や「印鑑証明書」、会社の定款、代表者の本人確認書類などが必要です。

金融機関によっては、事業計画書や事務所の賃貸借契約書の提出を求められることも……。

まずは、メガバンク・地方銀行・ネット銀行など各種手数料や利便性を比較検討し、登記完了後、迅速に口座開設の手続きを進めましょう。

会社設立を進める前に知っておきたい3つの注意点

最後に、会社設立を進める前に知っておきたい3つの注意点について見ていきましょう。

手続き開始から登記完了まで最低でも2週間はかかる

会社設立は、書類を提出すれば1日で完了するような単純な手続きではありません。

基本事項の決定から始まり、印鑑作成、定款作成、公証役場での認証、資本金の払込み、そして法務局への登記申請と、いくつかのステップが必要です。

上記のプロセスを滞りなく進めたとしても、最低でも2週間、一般的には3週間から1ヶ月程度の期間がかかります。

例えば、2025年4月1日を設立日にしたいのであれば、2024年のうちから準備を始め、2025年3月上旬には申請準備を本格化させるなど、余裕を持ったスケジュールが欠かせません。

赤字経営でも法人住民税の支払い義務がある

個人事業主の場合、事業が赤字だと所得税や住民税は課税されませんが、法人は別です。

法人には、仮に経営が赤字であっても納税義務が生じる「法人住民税」が存在します。

法人住民税は、利益に応じて課税される「法人税割」と、会社の資本金や従業員数に応じて定額が課される「均等割」の二つで構成されるものです。

上記のような「均等割」があることにより、事業年度の決算が赤字であっても、年間約7万円の税金を納めなければなりません。

将来会社をたたむ際にも解散・清算費用が発生する

事業を始めるなら、将来的に会社をたたむ可能性も視野に入れる必要があります。

個人事業主であれば税務署に廃業届を提出するだけで済みますが、法人の場合は手続きが複雑で費用もかかるため、注意が必要です。

会社を清算するには、まず株主総会で解散を決議し、法務局で解散登記と清算人選任登記を行います。

その後、債権者保護手続きとして官報公告を行い、財産整理や債務弁済を経て、最終的に清算結了登記を申請するのが一般的です。

これらの登記費用や官報公告費用だけで約7万円以上、司法書士に依頼すればさらに報酬が必要です。

5年、10年、20年と事業を続けた後、50代で引退を考える際などにも、そうした廃業コストが発生するので、適切に理解しておくことをおすすめします。

まとめ

会社設立の手続きは複雑ですが、司法書士などの専門家へ相談することで、スムーズかつ確実に進めることが可能です。

誰に相談すべきか迷った際は、無料相談などを活用するのも一つの方法です。

近年は、freeeや弥生が提供する「かんたん会社設立」のようなクラウドサービスも充実しており、webやアプリのサポートを受けながら、費用を抑えて設立する選択肢もあります。

フリーランスや会社員の副業、エンジニア、一人親方、飲食店や建設業、農業、人材派遣業など、日本全国で様々な業種の個人が法人化を検討しているからこそ、様々な目的に応じた会社設立が必要となるでしょう。

まずは、どのような形で会社を設立するのが適切か一度検討してみてはいかがでしょうか。

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#カケハシ 編集部

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