セブンイレブンが採用するドミナント戦略とは、特定地域に店舗を集中させる経営手法のことです。
そうした戦略は、物流の効率化やブランド認知度の向上などいくつかの恩恵をもたらす一方で、加盟店同士の競合といった問題点を抱えています。
現に、メリットもあればデメリットもあるのが実情です。
この記事では、セブンイレブンの事例を中心に、ドミナント戦略の具体的な仕組みやメリット、そして潜在的なリスクや課題について、他社の成功事例も交えながら解説します。

INDEX
そもそもドミナント戦略とは?特定地域に集中出店する経営手法

ドミナント戦略とは、チェーン展開を行う企業が特定の地域内に店舗を集中して出店する経営戦略を指します。
ドミナントは「支配的な優位な」といった意味を持ち、その名の通り、特定エリアにおいて競合他社に対する優位性を確立することを目的としています。
経営資源を一点に集中投下することで、該当の地域での認知度を飛躍的に向上させ、物流や広告宣伝の効率を最大化させるわけです。
この手法はコンビニエンスストアやスーパー、飲食店など、多店舗展開を行う小売業界で採用されている戦略の一つです。
なぜセブンイレブンはドミナント戦略を強力に推進するのか

セブンイレブンがドミナント戦略を強力に推進する背景には、経営効率の最大化という明確な目的があります。
特定地域に店舗網を密集させることで、一回の配送で複数の店舗に商品を納品でき、トラックの移動距離を短縮して物流コストを大幅に削減することが可能です。
また、店舗が集中していると、スーパーバイザーと呼ばれる経営指導員が担当する店舗間の移動時間も短縮され、より高品質な店舗指導が可能になります。
地域内でのブランド露出を確保することで広告宣伝効果も得られ、競合他社の参入障壁を築くことにも繋がるなど、セブンイレブンはあえてドミナント戦略を事業拡大の根幹に据えているのです。
セブンイレブンが実践するドミナント戦略の4つのメリット

ここからは、セブンイレブンが実践するドミナント戦略の4つのメリットについて見ていきましょう。
地域でのブランドイメージが向上し集客しやすくなる
特定の地域に集中的に出店するドミナント戦略は、消費者の目に触れる機会を増やします。
通勤や通学、買い物の途中など、生活の様々な場面でセブンイレブンの看板が視界に入ることで、ブランドの認知度が自然と高まるわけです。
この反復的な接触は「ザイオンス効果」とも呼ばれ、顧客に安心感や親近感を与え、無意識のうちに来店を促す効果があるとされています。
特別な広告宣伝活動を行わなくても、それぞれの店舗の存在自体が強力なアピールとなり、地域住民にとって「近所の便利な店」としての地位を確立しやすくなるわけです。
結果的に機会損失が減り、安定した集客基盤を築くことが可能になると言えるでしょう。
費用対効果が低くなるのも抑えられるなど、ドミナント戦略は優秀な戦略と言えるのではないでしょうか。
物流コストを抑え商品供給を安定させる
ドミナント戦略がもたらすメリットの一つが、物流の効率化です。
店舗が一定のエリアに密集しているため、配送トラックは最小限の移動距離で複数の店舗を巡回できます。
結果的に、ガソリン代や人件費といった物流コストの大幅な削減が可能。
また、配送効率が向上することで、1日に何度も商品を店舗へ届ける「多頻度小口配送」が実現しやすくなるとも言えるでしょう。
上記により、お弁当や惣菜などの鮮度が重要な商品を常に新鮮な状態で提供できる体制につながり、顧客満足度の向上に寄与すると言えるのではないでしょうか。
加えて、欠品リスクも低減し、安定した商品供給を実現できる点においても、ドミナント戦略は効果的とされています。
上記のように、物流の観点でもドミナント戦略は優秀なのです。
ライバル店の出店意欲を削ぎ市場を独占できる
特定エリアに高密度で店舗を配置するドミナント戦略は、競合他社に対する強力な参入障壁として機能します。
ある地域でセブンイレブンがすでに圧倒的なシェアを握っている場合、他のコンビニチェーンが新たに出店しても、顧客を確保することが困難になります。
既存の店舗網によって市場が飽和状態にあるため、後発の競合は十分な収益を見込めず、出店自体を躊躇させるわけです。
上記のように、競合の進出を未然に防ぎ、特定エリアの市場を事実上独占することで、安定した収益基盤を長期的に維持することが可能なのもドミナント戦略の1つの側面です。
地域特性に合わせた販促活動を展開しやすくなる
ドミナント戦略によって店舗が地域に集中すると、該当エリアの顧客層やライフスタイル、消費傾向といった詳細なデータを収集分析しやすくなります。
例えば、オフィス街の店舗では昼食需要に応える弁当やパンを強化し、住宅街の店舗では日用品や冷凍食品の品揃えを増加させるなど、地域ごとのニーズに合わせた商品構成を実現できるのが特徴です。
また、エリア限定のキャンペーンや販促イベントを実施する際も、対象店舗が集中しているので効率的に展開でき、地域全体での盛り上がりを創出できます。
上記のように、ドミナント戦略は画一的な店舗運営ではなく、地域に根差したきめ細やかなマーケティングを可能にするのです。
セブンイレブンのドミナント戦略が抱える3つの問題点

ここでは、セブンイレブンのドミナント戦略が抱える3つの問題点について見ていきましょう。
近隣の店舗同士で顧客を奪い合う「共食い」が発生する
ドミナント戦略の問題点として指摘されるのが、共食い問題です。
これは、至近距離に同じチェーンの店舗が複数存在することで、互いに顧客を奪い合ってしまう現象を指します。
本部側から見れば、エリア全体の総売上が維持または向上すれば問題ないと捉えられがちですが、それぞれの店舗にとっては死活問題です。
すぐ近所に新店舗が開店したことで、既存店の売上が大幅に減少し、経営が圧迫されるケースは決して珍しくありません。
まさに共食い問題は、ドミナント戦略がもたらす負の側面であり、加盟店の不満に繋がる要因となっています。
加盟店オーナーの収益が悪化する可能性がある
近隣店舗との共食いが発生すると、直接的な影響を受けるのがフランチャイズ加盟店のオーナーです。
売上が減少すれば、当然ながらオーナーの手元に残る利益も失われます。
特に、本部に支払うロイヤリティは売上総利益に対して一定の割合で計算される仕組みとなっているため、売上が落ち込んでも負担が軽減されにくい構造になっています。
ドミナント戦略によって本部はエリア全体の収益を確保しようとしますが、その過程で個々の加盟店の経営が犠牲になる可能性はゼロではありません。
オーナーの生活を脅かしかねないこの問題は、ドミナント戦略の持続可能性を考える上で避けて通れない課題です。
地域の人口減少や災害発生時のリスクが集中する
ドミナント戦略は、経営資源を特定の地域に集中させるので、地域自体の変化に対する脆弱性を抱えています。
例えば、出店エリアの人口が工場の移転や少子高齢化によって減少に転じた場合、地域にあるすべての店舗の売上が同時に低迷するリスクがあります。
また、地震や津波、洪水や台風といった大規模な自然災害が発生した際には、集中的に出店している店舗群が一斉に被災し、物流網も寸断され、事業の継続が困難になる可能性もゼロではありません。
リスクを地理的に分散させる戦略とは対照的に、ドミナント戦略はこうした地域特有のリスクを一手に引き受けることになるのです。
そのため、常に警戒が必要です。
セブンイレブン以外のドミナント戦略成功事例

ドミナント戦略は、コンビニ業界に限らず、様々な業界で成功事例が見られます。
特に飲食業界では、ドミナント戦略を巧みに活用してブランド価値を獲得し、強固な顧客基盤を築いている企業が存在するのです。
例えば、コーヒーチェーンのスターバックスやコメダ珈琲店は、都市部の一等地に集中的に出店することで洗練されたブランドイメージを確立したり、地域に根付いた印象を与えたりすることに成功しています。
まさに、ドミナント戦略は応用次第で優秀な戦略となるわけです。
スターバックス:ブランド価値を高める出店戦略
スターバックスは、大都市の駅前やオフィス街、商業施設といった人々が密集する一等地に集中的に出店するドミナント戦略を採用しています。
これにより「どこに行ってもスターバックスがある」という利便性と汎用性を提供し、日常生活に溶け込むブランドとしての地位を確立しました。
彼らの戦略の特徴は、単に店舗数を配置するだけでなく、洗練された店舗デザインや快適な空間づくりにこだわることで、他にないブランドイメージを維持している点にあります。
それらのブランド力を背景に、コーヒーという日常的な商品を付加価値の高い体験として提供し、顧客のロイヤリティを獲得することに成功しているのです。
実際に、最近では「コーヒー=スターバックス」と想起する人も珍しくないです。
コメダ珈琲店:地域に根差した店舗展開
コメダ珈琲店のドミナント戦略は、スターバックスとは若干異なり、郊外のロードサイドや住宅街を中心とした地域密着型のアプローチを特徴としています。
特定のエリアに根を下ろし、地域住民にとって「自宅の延長線上にあるリビングのような空間」を提供することを目指しているのが特徴です。
これらはフランチャイズオーナーとの連携を密にし、一度出店したエリアで着実に顧客基盤を固めてから、徐々に周辺地域へと展開していく堅実な手法です。
その地域に深く根差したドミナント戦略が、常連客を中心とした安定した経営を支え、独自のブランドポジションを築くことに繋がっています。
まとめ

セブンイレブンが採用するドミナント戦略とは、特定地域への集中出店を通じて、物流効率化、ブランド認知度向上、競合排除といった経営上のメリットを最大化する手法です。
この戦略により、セブンイレブンは強固な事業基盤を築いてきました。
しかし、その一方で加盟店同士の共食いや収益悪化、災害時におけるリスクの集中といった無視できない問題点も抱えています。
ドミナント戦略は、企業の成長を加速させる強力な手段であると同時に、デメリットもあるからこそ、運用には加盟店との関係性や地域社会への影響を考慮した、慎重なバランス感覚が求められるでしょう。
どのような経営がハマるかは状況によっても変わるため、慎重な判断が求められるのではないでしょうか。
