個人事業を休業または廃業した際、今後の生活への心配は尽きないものです。
人によっては、今も不安に押しつぶされそうになっているのではないでしょうか。
実は、筆者も個人事業主を10年以上やっていますが、単に仕事がもらえずに苦労したり、体調を崩して働けなくなったりと色んなことを経験してきました。
ゆえに、失業保険がもらえるのかどうかは気になるところ。
サラリーマンの人が開業や独立する場合も、会社員時代のように失業保険を受け取れるのか気になるでしょう。
そこで、この記事では、失業保険の概要、個人事業主が失業保険を受け取るための条件、個人事業主が失業保険の対象とならないケース、個人事業主でも再就職手当を受け取れるか、個人事業主が失業保険や再就職手当を受け取る手続き、失業保険や再就職手当に関する疑問について詳しく解説します。

INDEX
失業保険の概要
まずは、失業保険の概要について見ていきましょう。
失業保険とは何か
失業保険は、正式には「雇用保険の基本手当」と呼ばれます。
雇用保険は、労働者が失業した場合や、労働者の生活及び雇用の安定、就職の促進のために給付を行う保険制度です。
雇用保険に加入していた方が離職し、働く意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けない「失業の状態」にある場合に、一定の要件を満たせば支給されます。
当制度は、失業中の経済的な不安を軽減し、一日も早く再就職できるよう支援するのが目的です。
失業状態の定義
失業状態とは「就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態」を指します。
単に無職であるだけでは失業状態とはみなされません。
積極的に求職活動を行っていることが条件です。
具体的には、ハローワークに来所して求職の申し込みを行い、就職活動を行っている必要があります。
病気や怪我、妊娠・出産などによりすぐに就職できない場合は、原則として失業状態とは認められないため、十分に気を付けたいです。
失業保険の給付額の計算方法
失業保険の給付額は、離職前の賃金と年齢によって決まります。
給付額は「基本手当日額」として計算され、これは離職前6ヶ月間に支払われた賃金の総額を180で割った「賃金日額」をもとに算出されるのが通例です。
基本手当日額に所定給付日数を乗じることで、受け取れる給付総額が計算できます。
給付率は賃金日額に応じて異なり、おおよそ離職前賃金の50〜80%程度が目安となりますが、上限額も定められているので、注意が必要です。
個人事業主が失業保険を受け取るための条件
次に、個人事業主が失業保険を受け取るための条件について見ていきましょう。
個人事業主が失業保険の対象となるケース
個人事業主が失業保険をもらえるのは、主に個人事業を開始する前に会社員として雇用保険に加入しており、被保険者期間に関する条件を満たしている場合です。
会社を退職後に個人事業を開業し、その事業を廃業した場合、退職前から個人事業を行っていたが、退職後にその事業に専念したものの後に廃業した場合などが対象。
また、事業を開始したものに準ずるものとして、ハローワークの所長が認めた場合も含まれます。
被保険者だった期間に関する要件
失業保険を受け取るためには、雇用保険の被保険者であった期間が一定期間以上必要です。
自己都合による退職の場合は、離職日以前の2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上必要となります。
会社都合による退職(解雇や倒産など)の場合は、離職日以前の1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あれば条件を満たすこともあります。
これらの条件は、会社員として雇用されていた期間が対象です。
求職活動を行っていた期間の要件
失業保険の受給には、積極的に求職活動を行っている期間が必要です。
ハローワークでの求職申し込みを行い、原則として4週間に2回以上の求職活動の実績を作る必要があります。
具体的には、求人への応募やハローワークの職業相談、セミナーへの参加などが必要です。
単に求人情報を閲覧するだけでは、求職活動とは認められない場合があります。
離職後の経過期間に関する要件
離職後、失業保険の受給資格が決定されてから最初の7日間は「待期期間」となり、期間中は失業保険が支給されません。
自己都合による退職の場合は、待期期間に加えて一定期間の給付制限がある場合も。
再就職手当の受給を検討している場合は、待期期間満了後に事業を開始するなど、経過期間に関する条件を満たす必要があるからこそ、正しい計算が欠かせません。
個人事業主が失業保険の対象とならないケース
次に、個人事業主が失業保険の対象とならないケースについて見ていきましょう。
失業保険の対象外となる具体的な状況
個人事業主が失業保険をもらえないケースとしては、そもそも雇用保険に加入していなかった場合が挙げられます。
また、会社を退職後すぐに個人事業を開業し、事業を継続している場合は、失業状態ではないとみなされるため、原則として失業保険の対象外です。
廃業せずに休業している状態も、基本的には対象外となる可能性が高いです。
失業保険は、働く意思と能力がありながら仕事に就けない状態を支援するための制度であり、事業を継続している場合はこの状態に該当しないと判断されます。
事業を継続している場合の扱い
個人事業を継続している場合、たとえ事業収入が少ないとしても、原則として失業保険をもらうことはできません。
失業保険の受給資格の前提として働く意思と能力があり、かつ失業状態にあることが必須。
事業を継続しているということは、働ける状態であり、かつ事業という仕事に就いているとみなされるので、失業状態には該当しないと判断されるのが普通です。
事業を廃止(廃業届を提出)して初めて失業状態と認められます。
副業収入がある場合の注意点
会社員として働きながら副業として個人事業を行っていた方が退職した場合、その副業を退職後も継続していると、失業保険の対象外となる可能性があります。
これは、副業であっても事業を継続している場合は「失業状態ではない」と判断されるためです。
副業収入がある場合は、その収入額や労働時間に関わらず、ハローワークに正確に申告する必要があります。
申告を怠ったり、事実と異なる申告をしたりすると、不正受給とみなされ、厳しいペナルティが科される可能性があるので、要注意です。
確定申告の内容とハローワークへの申告内容に齟齬がある場合、不正受給がバレることも珍しくありません。
個人事業主でも再就職手当を受け取れるか
ここからは、個人事業主でも再就職手当を受け取れるかについて見ていきましょう。
再就職手当の定義
再就職手当は、失業保険(基本手当)の受給資格がある人が、所定給付日数を一定日数以上残して早期に安定した職業に就いた場合や、事業を開始した場合に支給される手当です。
早期の再就職や自立を促進することを目的としており、「祝い金」や「お祝い金」と呼ばれることもあります。
失業保険のように継続的に支給されるものではなく、一度にまとめて支給される一時金であり、別物として扱われます。
ゆえに、失業保険と混合しないよう気を付けたいです。
個人事業主が再就職手当を受け取るための条件
個人事業主として再就職手当をもらうためには、いくつかの条件があります。
- 失業保険の受給資格があること
- ハローワークに求職の申し込みをした後、7日間の待期期間を満了した後に事業を開始したこと
- 事業を開始した日の前日までに失業の認定を受けており、かつ失業保険の所定給付日数の残日数が3分の1以上残っていること
- 過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 1年を超えて事業を継続することが確実であると認められること
なお、自己都合退職による給付制限がある場合は、待期期間満了後の1ヶ月間はハローワークまたは許可・届出のある職業紹介事業者の紹介による就職(または事業開始)であることが必要です。
再就職手当の対象外となるケース
個人事業主が再就職手当をもらえないケースもあります。
対象外となるケースは、以下の通りです。
- 7日間の待期期間中に事業を開始した場合
- 失業保険の所定給付日数の残日数が3分の1未満である場合
- 過去3年以内に再就職手当などを受給している場合
- 離職前の事業主に再び雇用された場合
- 関連性の高い事業を開始した場合
- 雇用保険の被保険者とならないような働き方を開始した場合
- 1年未満で事業を廃止する見込みである場合
以上に該当する場合、対象外となるパターンも珍しくありません。
個人事業主が失業保険や再就職手当を受け取る手続き
ここでは、個人事業主が失業保険や再就職手当を受け取る手続きについて見ていきましょう。
ハローワークでの手続きの流れ
失業保険や再就職手当の申請は、住所地を管轄するハローワークで行います。
- 会社から受け取った必要書類を持参する
- ハローワークで求職の申し込みを行う
- 雇用保険受給者初回説明会に出席する
- 失業保険の受給に関する説明を受ける
なお、失業の認定を受けるためには、原則として4週間に一度ハローワークに行き、求職活動の状況を申告する必要があるため、注意が必要です。
別途、再就職手当を申請する場合は、事業を開始した後にハローワークに申請書類をご提出ください。
わからないことはハローワークの職員に聞いてみましょう。
失業保険受給中の求職活動
失業保険の受給中は、積極的に求職活動を行うことが条件となります。
原則として、失業認定日までの期間に2回以上の求職活動実績が必要です。
ハローワークでの職業相談や職業紹介、求人への応募、各種講習会への参加などを行って初めて「求職活動している」と認められます。
インターネットでの求人情報の閲覧や単なる企業への問い合わせなどは求職活動として認められない場合があるため、要注意です。
個人事業開業に関する書類の準備
個人事業を開始する場合、税務署に提出する開業届などの書類を準備する必要があります。
再就職手当の申請時には、事業を開始したことを証明する書類の提出が必要で、具体的には税務署に提出した開業届の控えや事業内容が確認できる書類などが必要です。
上記の書類は、ハローワークに再就職手当を申請する場合に必要となるので、事前に準備しておくと安心!
開業届の提出について
個人事業を開始した場合、原則として事業開始から1ヶ月以内に税務署に開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)を提出する必要があります。
所得税法で定められた義務ですが、提出が遅れた場合でも罰則はありません。
ただ、再就職手当の申請を検討している場合は、開業届を提出するタイミングが重要。
失業保険の待期期間満了後に開業届を提出するなど、再就職手当の受給条件を満たすタイミングで提出することが大切です。
再就職手当の申請方法
再就職手当の申請は、事業を開始した後、ハローワークで行います。
事業を開始した日の翌日から1ヶ月以内に、ハローワークに再就職手当支給申請書や雇用保険受給資格者証、開業届の控えなどの必要書類を提出するのが条件です。
申請後に審査が行われ、支給が決定すれば指定の口座に手当が振り込まれます。
なお、申請期限を過ぎてしまうと、再就職手当を受け取れなくなる可能性があるため注意が必要です。
失業保険や再就職手当に関する疑問
最後に、失業保険や再就職手当に関する疑問について見ていきましょう。
失業保険や再就職手当の審査に通らないのはなぜ?
審査に通らない原因としては、提出書類の不備や申告内容と事実の相違が考えられます。
また、事業の実態が確認できない場合や雇用保険の被保険者となる働き方ではないと判断された場合も審査落ちとなるため、申請前に確認したいです。
アルバイトやパートとして働き始めた場合でも、雇用保険の加入条件を満たさない働き方であったり、待期期間中や給付制限期間中に就労を開始したりすると再就職手当の対象外となる可能性もあるので、注意が必要です。
求職活動の実績が不十分な場合も、審査に影響を与える可能性があります。
個人事業主の失業保険受給は発覚するのか
個人事業主が失業保険を不正に受給した場合、バレる可能性は決して低くないです。
税務署への確定申告の内容や、周囲からの通報、ハローワークの調査などによって不正が発覚することがあります。
事業を開始しているにもかかわらず失業状態であると偽って申告したり、副業収入を隠したりする行為は不正受給にあたります。
不正受給が発覚した場合、支給された失業保険の全額返還に加え、多額の追徴金が課されるなどの厳しいペナルティが科せられ、発覚以降は失業保険の給付も停止されるなど非常にリスキーです。
副業をしながら失業保険を受け取れるか
副業として個人事業を行っている場合、原則として失業保険を受け取ることはできません。
失業保険は「失業状態」にあることが条件であり、事業を継続している場合はこの状態に該当しないとみなされるためです。
ただ、雇用保険の受給期間内に副業を廃業し、求職活動に専念する場合は、失業保険の対象となる可能性があります。
副業収入があるにもかかわらず失業保険を受給すると、不正受給扱いです。
アルバイトやパートとしての短期間の就労であっても、収入を得た場合はハローワークに申告する必要があります。
失業保険受給後の起業について
失業保険の受給期間が終了した後に起業することは可能です。
失業保険は、あくまで再就職を支援するための制度であるため、受給期間中は求職活動に専念することが求められます。
ただ、受給期間満了後に事業を開始することは何ら問題ありません。
失業保険を受給している間に起業の準備を進めることはできますが、事業を開始した場合は失業状態ではなくなるからこそ、その後の失業保険は支給されなくなります。
起業によって再就職手当の対象となる場合もあるので、条件は要確認です。
失業保険受給中の開業届提出のタイミング
失業保険を受給中に開業届を提出すると、失業状態ではないとみなされ、失業保険の支給が停止されるのが普通です。
したがって、失業保険を満額受給したい場合は、原則として失業保険の受給期間が終了した後に開業届を提出する必要があります。
ただ、再就職手当の受給を目指す場合は、失業保険の待期期間満了後など、再就職手当の受給条件を満たすタイミングで開業届を提出することが必要です。
開業届の提出タイミングは、自身の状況や目指す手当によって判断が異なります。
まとめ
個人事業主が失業や廃業、退職を経験した際に、失業保険や再就職手当を受け取れるかどうかは、雇用保険の加入歴や廃業の状況、ハローワークが定める条件を満たすかどうかにかかっています。
原則として、個人事業主自身は雇用保険の対象外ですが、会社員として雇用保険に加入していた期間があれば、一定の条件のもと失業保険の対象となる可能性がある他、早期に開業する場合や廃業後に再就職を目指す場合は、再就職手当がもらえるかもしれません。
いずれの手当もハローワークでの適切な手続きと、失業状態や求職活動に関する条件を満たすことが重要です。
もし不明な点がある場合は必ずハローワークに相談し、自身の状況に合わせた正しい手続きを行いましょう。
なお、失業後の職探しは代理店・取次店・フランチャイズ募集サイトのカケハシにご相談ください。
